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住まいと暮らしの教育

住まいの教育は「家を慈しむ気持ち」から

(社)住宅生産団体連合会 情報管理部長 佐野孝雄氏

■住教育に取り組んでみませんか?

今回作った住教育ガイドラインは、小、中、高等学校の授業に住まいに関連する学習を取り上げてもらうことが主な目的です。小澤紀美子先生が中心になって取り纏められましたが、まずは学校の先生方に対してガイドラインを提案し授業に取り入れてみませんかという呼びかけをしています。

私は、その中でも特に小学校の授業で取り上げてもらうことが重要だと考えています。

小学校の授業で住まいについての体系的学習を定着させるのは難しいことですが、非常に大事なことだと思っています。

今回、私は、主に小学校の授業で取り上げてもらいたいという思いでガイドライン作りに参加しましたが、住まいを慈しむということは、実は家庭での話でもあります。家をきれいにしようと努力し、長持ちさせようと大切に思う気持ちは、本来は家庭で育み家庭で実践していくことではないかと思うからです。わたしたち大人が率先して家を慈しむことで、その気持ちを子どもたちに引き継いでいかねばなりません。住教育の根本はそこにあるのではないでしょうか。

二世代三世代同居が当たり前だった昔に比べて現代の家庭では、家庭内での祭事がやや形骸化してきています。以前は生活の中で自然に身につけていった日本の伝統的な暮らし方や住まい方の伝承をどうするかという問題もあります。

■家を慈しんで価値を高める

なぜ日本人に家を慈しむ気持ちが育たないのでしょうか。

国連の統計を見ると、アメリカでは家の寿命は100年以上、日本は約30年。石の家が多いヨーロッパはアメリカよりももっと家の寿命が長いということです。

軸組木造の家が主な日本と、ツーバイフォーが主流であるアメリカ。同じ木造住宅なのに、なぜそれほどまでに差が出るのでしょうか。

原因は、既存住宅の流通システムの違いということでしょうか。

アメリカ人は一生のうち、平均7~8回転職するといわれています。国土が広いので、転職に伴い家を売買することになります。それだけ頻繁に売買をするとなると、買った値段に限りなく近い価格、もしくは高い価格で売却したいと思うのは当たり前でしょう。高く売れれば、次の家はステップアップできる。アメリカ人はそうやって、仕事のステップアップとともに住宅もステップアップをしていっているようです。

転売するときに高く売るためには、日常的に手入れをしていることが一番大事です。傷んだ場所をそのままにしておくと、傷みはどんどん広がりますが、小さいうちにまめに手入れをしていれば、きれいなまま保つことができます。

対して日本には、そういった習慣がありません。既存住宅は土地の価格で判断されることが多く、仮に同時期に建てられた2軒の家が売りに出されたとします。一方は手入れのよい家、もう一方は手入れのよくない家。査定は当然前者が高くなりますが、一般に安い家が先に売れてしまうのです。そして、手入れがよくても高い価格の家は、価格の低い方にひっぱられて価格を下げてしまうのが現状です。

このような現状では、「家を手入れしましょう」「手入れをして長くもたせましょう」といっても、「まぁいいか」となってしまうのもやむを得ません。不動産価格は、所有者の努力が必ずしも反映されずに土地の価格で決まってしまいがちですから。

しかしこれからは、建物自体に資産価値を認めていくことが大事なのではないでしょうか。手入れをされている家は当然価値も高い。当たり前のことです。

■住団連の活動

地道な活動ですので、目立った広がり方はしていませんが、毎年10月に行われる住生活月間の様々な活動の一環で、私たち(社)住宅生産者団体連合会(住団連)と(社)日本住宅協会の両者が中心となって、家庭科の副読本などを制作したり、いくつかの住教育に関係するプロジェクトに助成金を提供してきました。

また、まだ歴史は浅いですが住団連「家やまちの絵本」コンクールを行い、子どもの部(小学生以下)、子どもと大人の合作の部、大人の部(中学生以上)の分野で絵本を募集し、住生活月間の中央イベントで表彰しています。

学校の先生に聞くと、子どもにとって一番大事なのは、「知識」ではなく「想像力」なのだそうです。知識は時間をかければいくらでも教えることができるが、その先の応用力や想像力をどう生かすかどう伸ばすかは、美術や音楽といった芸術系感性系の教科が非常に大事なのだそうです。そういう意味でも、このコンクールは学校の先生方には好感をもって迎えられているようです。

このコンクールでは、一つの物語を親子や仲間で共同で作る、一枚一枚の絵をそれぞれが担当してクラス全員で一冊の絵本を作る。こういうことは、そのプロセスこそが重視されるべきで、家で、地域で、学校で、みんなでわいわい話しながら物語を作り絵本を描きだしていく。これは住教育の原点だと思います。

■民間企業の協力

大和ハウス工業や積水ハウスは、開放型の体験施設を持っていて、学校の課外研修の一環としても使用できるようになっています。

大和ハウス工業は、求めに応じて社員を学校に派遣する派遣型授業をやっていますし、積水ハウスでは、授業プログラムを作成して、リクエストに応じてオリジナルのプログラム作りにも応じています。

こういった民間の協力は、大きな力です。

子どもたちに住まいについて考える大人になってもらうよう、民間企業、NPO法人、研究者、学校の先生、そして家庭のそれぞれが協力していくことが大事です。それこそ縄をなうような気持で丁寧に地道にやっていくことだと思っています。

追伸:
住教育の一環として展開している家やまちの絵本コンクールの最新の入賞作品を是非ご覧ください。