取材:筑波大学附属小学校 家庭科教諭 勝田映子先生
現在小学校での住宅に関連する学習は、主に3つの教科で行われています。
○建物構造や暮らしの歴史的なことを学ぶ社会科
○住環境、インテリアなどで色彩や造形を学ぶ図画工作科
○住まい方、暮らし方の工夫を学ぶ家庭科
今年発表される新しい学習指導要領の中で、家庭科は、小・中学校9年間を見通して計画がたてられるように変わりました。小学生は季節に応じた自然をいかした住まい方に重点が置かれ、中学校になると安全な住まい方に重点を置くようになっています。
また環境教育と連携して、小学生は身の回りの整理整頓やごみの始末、地域の中での不要用品の資源化などを勉強し、中学生になるとグリーンコンシューマーのような消費者としての行動や責任を学びます。さらに自分が快適に生活することだけではなく、近隣との関係性を考えるといった、小学生よりも広い視点での住環境について学びます。
高校生になるとさらに視点を広げて、まちの住環境や景観、高齢者問題や、住宅を「生涯使う生活の器」としてとらえて住まいを見直す学習を行い、最終的には自分が世帯主として住まいを選択し、自立した住まい手としてのシミュレーションを行います。
小学生は家の中でできることを学び、中学生は自分の家を相対化して考え、高校生は社会の中で他者と共生できる自立した人間として学習するというように展開していくわけです。
今の子どもたちは、涼しい暑い、明るい暗いという感覚が弱くなってきています。
暑くも寒くもないのに部屋に入ったらすぐにエアコンをつけたり、暗くなっても平気で本を読んでいる子もいます。子どもの身体感覚が非常に下がっているのです。
子どももいろいろな知識は持っています。ソーラーシステムを使うと電気代が安くなるとか、エアコンの設定温度は28度とか、知ってはいるのです。しかし、知識と生活が結びつかないのです。
住まい手と住まいはつながっています。からだを通して空間や環境を理解していってほしいのです。住教育は、からだを通して環境としての住まいを理解・体感してみませんか、という提案でもあるのです。
家庭科は、家庭でやるから必要ないという人がいますが、それは違います。
子どもは自分の家庭しか知りません。暑さ寒さに関係なくエアコンを使用している家で生活している子どもは、それが当たり前になり何も問題点を感じません。しかし、28度にならないとエアコンはつけないという家庭もあります。いろんな住まい方があるのだということに気づくのは学校ならではです。
総合的に教科をリンクさせるのも、学校だからできることです。科学的認識や社会的考え方の理解など、自分の住まい方を広い視野で位置づけることができるのです。
対して家庭は、学校で学んだことを生かす、試して楽しんでみる場所です。家庭ではおばあちゃんの知恵的なものを身につけ、学校でその科学的根拠を学ぶ。いろいろな知恵や知識をミックスし総合的に身につけていくためには、学校と家庭の両方が必要なのです。
「窓は対面をあけると涼しい」と煙を使った実験で納得したはずなのに、教室に行ってみると、暑いのに校庭側の窓だけ開けて廊下側の窓は閉ざされていることがあります。せっかく知識はあるのに生活に生かされていないのが現状であり、最大の問題点です。それは日本の学校教育の問題点ともいえます。
知識を実生活で生かす、それが今度の学習指導要領でいわれている「活用する力」です。
日本の子どもは世界の子どもと比較して、知識はあるがそれを応用して問題を解決する力がないといわれています。問題発見能力が低く、いわれればわかる、やりなさいといわれればできるが、現状から問題を発見し知識を組み合わせて解決する力が弱いのです。
その理由は、総合的にものを考えていく場面が学習の中で少なかったから、それぞれの教科が輪切りになっていて結びつける学習をしてこなかったからです。
小学校では部屋の換気が大事だということを勉強します。それでもガス機器の事故で人が亡くなってしまうのが現実です。それは「なぜ」が教えられてこなかったからではないでしょうか。モノが燃えるときには酸素が必要です。だから室内に燃えるものがあるときは、酸素を補うために定期的な換気が必要。この「なぜ必要か」をきちんと教えなければいけないのです。
本来家庭科は、非常に総合的な教科です。いろいろな教科の知識を活用し、からだ感覚を体得していくことが、住まいの教育です。ガス機器の事故でもわかるように、住まいの教育は命に直結する教育です。教える側もその認識をもってあたらないといけません。
家庭科の究極の目標は、実践的な態度を育てることです。それには価値観を育てることが最も大事です。ボタンのつけ方を知っていても、とれたままで平気という価値観を持っていたら何の役にも立ちません。同じように、「人との関わりの中で生きていく」「共生していく」という価値観を育てていかないと、どんなに高度な学習をしてもよりよい住まい手になることはできません。
住教育では「我が家を快適に」ということだけではなく、近隣との関係性や防犯・防災についての価値観を育てることも念頭に置いています。
阪神淡路大震災のとき、古い木造アパートに住む学生がたくさん亡くなりました。耐震性などへの対処は行政的に進めていくことも必要ですが、住み手側も知識を持つことが大事です。
また、近隣と積極的に関わることが、自分の身を守ることになるということも是非知ってほしいことの一つです。
今の子育て世代の関係性の持ち方は、地縁でも血縁でもなく、趣味が同じといった趣味縁や幼稚園や習い事が一緒といったコレクティブな関係が多く、近所の人とのお付き合いはあまりないと聞きます。しかしそれでは防犯・防災上も、また近隣との関係性もよりよく保つことができません。
近所の人とのお付き合いがあれば、子どもが知らない人と一緒なのを見たら「どうしたの?」と声をかけてくれます。騒音の問題などは、匿名性が高いと腹が立ちやすく、逆に知っている人であればそれほど腹が立つこともなくなるといいます。互いに気持ちよく安全に暮らすには、近所の人とのお付き合いは必要不可欠なのです。そういったことも、住教育を通して学んでほしいと思います。
現場の家庭科の先生には住居を専門として勉強した人は少ないのですが、きちんと勉強したいと思っている先生が多くいます。今回作ったガイドラインの中で取り組もうとしていることの一つに、先生たちにもっと基礎的な知識をつけてもらいたいということがあります。
それには建築業界のバックアップや、研修の場も必要です。自治体は教員の研修を行っていますが、そこにハウスメーカーや建築家、NPOの方々などにも参加してもらって、輪が大きく広がっていけばいいなと思っています。
子どもにわかりやすく教えるための教材、指導方法などを提供し、学習方法の提案がこのガイドラインにはつまっていますので、ぜひ活用していただきたいと思います。