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既存不適格建築物を安全に

既存建築物に係る制度等の課題

危険な既存不適格建築物の是正

 現行の建築基準法においては、法令の改正等により既存建築物が法令の規定に不適合となった場合は、その建築物の増改築等の機会をとらえて、不適合となった規定の遡及を行うことにより性能の確保を図っている。
  一方で、法令の改正等により既存建築物が法令の規定に不適合になっていても、増改築等を行わない場合は、法令の規定に不適合のまま、いわゆる既存不適格建築物として存在することを許容している。
  従来、既存不適格建築物のうち著しく保安上危険又は著しく衛生上有害なものに関しては、法第10条に基づき、所有者等に対して保安上必要な措置等を命ずることができることとされていたが、近年、この法第10条に基づく命令の発動件数はほとんどないのが実情である。法令の基準に不適合な建築物のうち、違反建築物については、法第9条による命令が平成14年度で約310件(行政指導を含めると約8,300件)なされていることと比べ、危険な既存不適格建築物については、安全・衛生の性能確保に関する措置の実効性が低くなっている状態である。

既存建築物の法令遵守の担保

 既存建築物の維持保全については、現在、建築物の所有者等に対して、建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持すべき努力義務を課している。
  また、特殊建築物や一定規模以上の事務所ビルで特定行政庁が指定する既存建築物については、その所有者等に対して、定期に当該建築物の敷地、構造及び建築設備について専門技術を有する資格者等に調査させ、その結果を特定行政庁に報告(いわゆる定期報告)する義務を課している。
しかし、定期報告の報告率は平成14年度で約57%に留まっており、定期報告がなされておらず、その危険性の状況が明らかでない建築物が多数存在している状態である。新宿区歌舞伎町雑居ビル火災も、定期報告がなされておらず、このような状態を放置すると再び甚大な被害が生じる可能性があるため、定期報告率の向上を図るとともに、その実施内容の充実を行うことが必要である。
  また、従来の建築基準法においては、建築主事等が建築物に立入りを行うことができる場合は法第9条、法第10条の規定による命令をしようとする場合等に限られていたため、定期報告がなされず、外観からは違反状態を把握することが困難な場合においては、建築物が危険な状態であっても放置されてしまう可能性があった。
  さらに、建築基準法においては、建築計画概要書及び建築確認、中間検査、完了検査等の概要を表示している書類について請求があった場合には、特定行政庁はこれを閲覧させなければならないこととなっており、フロー段階については、建築物に係る情報開示の仕組みが整備されているところであるが、一方で、ストックに関しては、建築物に係る情報開示の仕組みが整備されておらず、建築物について定期報告がなされているか否かという情報すらも、一般の利用者にとっては把握することが困難な状況であった。

既存不適格建築物制度による凍結効果

 建築基準法においては、既存不適格建築物について増改築等を行わない場合は、法令の規定に不適合のまま存在することを許容する一方で、増改築等を行う場合は、即時に建築物全体について不適合である規定の遡及適用を行うこととしている。
  このため、たとえ安全性の向上を図るための改修を行う意思があっても、当該改修を断念あるいは先送りする、いわば著しい「凍結効果」が生じ、結果として既存建築物が改善されないまま放置される要因の一つとなっている。
  凍結効果が生じている具体的なケースとしては、例えば、昭和40年代に建築され、耐震基準及び防火・避難基準について不適格があるビルについて、耐震改修を早急に進めようとした場合、防火避難基準(防火戸の設置等)も含めて即時に最新基準に適合させなければならないため、改修を先送りし、危険な状態のまま放置されていたケースや、耐震基準不適格の複合ビル(商業部分と業務部分の間にエキスパンションジョイントがあり、構造耐力の観点からは別棟とみなすことが可能なもの)において、商業ビル部分の増築にあわせて耐震改修工事を行う場合、業務部分を含む全体について耐震改修工事が必要となるため、改修を先送りし危険な状態のまま放置されていたケースなどがあった。
  なお、この我が国の既存不適格建築物に対する遡及適用ルールは、類似の法制度である消防法における防火対象物の増改築時の取扱いや海外の類似制度における既存建築物への建築基準の適用ルールと比較しても厳格なものとなっていた。