人口が減少に転じ、社会の高齢化がまさに現実のものとなったいま。住宅施策においても新たな動きが始まっています。なかでも注目を集めているのが、「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度。これは、「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正に伴い2011年10月にスタートした制度で、国土交通省と厚生労働省が共管し、高齢者が安心して生活できる住まいづくりをいちだんと加速させていこうとするものです。
この制度が生まれた背景や担う役割、具体的な内容を知るとともに、これからの高齢者の住まいについていっしょに考えてみませんか。
高齢社会を象徴するように、日本の人口ピラミッドは近年大きく変化。とりわけ75歳以上の単身・夫婦世帯が急増していて、現状でも5世帯に1世帯、10年後には4世帯に1世帯が高齢者だけの世帯になるとされています。厚生労働省の試算でも、今後10年間で1000万世帯から1245万世帯に増えると見込まれています。大都市圏ではとくにその傾向が顕著です。
そうなると、介護などのサポートサービスを必要とするケースも多くなります。これまでは特別養護老人ホームなどの施設が受け皿となってきたのですが、すでに多くの入居待機者を抱えている現状を考えると、もはや施設だけに頼ってはいられません。加えて、特別養護老人ホーム申込者合計42万人のうち、要介護度が比較的低い1~2の人が3分の1にも。そうしたことから、ちょっとしたサポートがあれば在宅で生活を継続できる高齢世帯のための環境、すなわち介護・医療と連携して生活を支援するサービス付き高齢者住宅の供給促進が急がれるのです。
全高齢者に対する介護施設・高齢者住宅等の割合を示した次のグラフを見てください。
特別養護老人ホームをはじめとする施設系は、諸外国と変わらない一方で、高齢者住宅は不足していることがわかります。
そのため、高齢世帯が安心して暮らせる住まいを見つけることが難しいのが現状です。
従来の「高齢者住まい法」では、
● 高齢者の入居を拒まない住宅の情報を提供する「高齢者円滑賃貸住宅の登録」
● 専ら高齢者を受け入れる住宅の情報を提供する「高齢者専用賃貸住宅の登録」
● 良好な居住環境を備えた住宅の供給を促進する「高齢者向け優良賃貸住宅の認定」
の3種を国土交通省の管轄で進めてきました。
しかし、「制度が複雑」「医療・介護事業者との連携が不十分」といった声も聞かれていました。
また「老人福祉法」のもと、厚生労働省が推進してきた「有料老人ホームの届け出」制度も、施設の多くが「利用権契約」であるため、そこに住む権利を保証しきれず、介護度が進んだ際に部屋を移動させられるといったトラブルも。
そうしたこれまでの「住宅」と「施設」、それぞれの制度を見直し、「入居者保護」と「供給促進」を推進していこうというのが、「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度です。
「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度は、大きく3つの側面から登録基準を定めています。(有料老人ホームも登録可)
1 規模・設備
2 サービス
ケアの専門家による
3 契約関係
これら基準を明確にすることで、一般の賃貸住宅との差別化を図ることができます。とりわけサービスについては、少なくともケアのノウハウをもっている有資格者等のスタッフを日中は常駐させ(常駐していない時間帯は緊急通報システムを備える)、住んでいる高齢者の心身の状況などを把握して、必要な時に医療や介護などのサービスへの橋渡しを行なうという趣旨で、安否確認や生活相談サービスを必須としています。
登録は、都道府県・政令市・中核市が行い、事業者へ指導・監督を行います。
など、行政指導が強化され、居住者保護の向上が図られています。
登録済みの物件については、「サービス付き高齢者向け住宅 情報提供システム」で公開。全国情報から比較検討できるのはもちろんのこと、物件ごとの情報を検索・閲覧することもでき、ニーズに合った選択が可能です。
「入居者保護」とともに「供給促進」を目的とする「サービス付き高齢者向け住宅」は、建設・整備を行う事業者にも次の支援策が用意されています。
【補助】
登録された「サービス付き高齢者向け住宅」を対象に、建設費の1/10、改修費の1/3(国費上限一戸あたり100万円)が、国から民間事業者・医療法人・社会福祉法人・NPOなどに直接補助されます。
【税制】
「サービス付き高齢者向け住宅」を新築または取得した場合、所得税・法人税の割増償却、固定資産税の減額、不動産取得税の軽減措置が適用されます。
【融資】
住宅金融支援機構において、「サービス付き高齢者向け住宅」としての登録を受ける賃貸住宅の建設に必要な資金、当該賃貸住宅に係る改良に必要な資金または当該賃貸住宅とすることを目的とする中古住宅の購入に必要な資金への融資を実施します。