住み慣れた地域において、できるだけ長く住み続けたい。高齢者の多くは、そう強く願っています。そんな思いに応えていけるように、「高齢者住まい法」が改正により「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度が創設され、福祉・医療等の分野においては、「地域包括ケアシステム」の構築が推進されています。高齢社会のこれからに欠かせない、地域居住の実現の視点と、めざす将来像をご紹介していきましょう。
子どもたちが独立し、高齢者だけの単身または夫婦世帯になった場合、それまで住んでいた住宅では「移動しづらく、アクティブに生活しづらい」「メンテナンスが大変だ」「将来、見守り、介護などが必要になった場合のことを考えると不安」といった問題に直面します。
また、どうしても身体機能の低下が心配される75歳以上の高齢者の人口は2030年には2,260万人(総人口の20%)、現在より800万人増えると見込まれています。特に団塊の世代が居住する大都市地域において急激に増加します。
そして、高齢者の単身世帯、夫婦のみ世帯が急激に増加し、今後ますます在宅におけるケアサービスの重要性が高まってきます。
安心した生活の実現のためには、自助・互助・共助・公助が必要です。住み慣れた地域で住み続けたいと願うニーズは、地域には、見守りなどの培われてきた互助の力が備わっているからです。
こうしたニーズに対応する地域における住宅整備として、「サービス付き高齢者向け住宅」をはじめとする高齢者住宅、既存の住宅ストックの性能の向上、そして、在宅サービスの整備が急がれているわけです。
「地域包括ケアシステム」の構築は、地域においてニーズに対応した住宅が提供されていることを基本としたうえで、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療サービス、介護サービス、介護予防の取組み、生活支援サービスなどが、日常生活の場において、利用者のニーズに応じた適切な組み合わせで、切れ目のないサービスの提供ができる体制を整備するものです。
地域包括ケアの圏域は、概ね30分以内に駆け付けられる地域(概ね中学校区)を理想としています。
そして、これを積極的に推進するため、介護保険制度において新たに、日中・夜間を通して、訪問介護と訪問看護が密接に連携しながら、短時間の定期巡回型訪問と随時の対応を行う「定期巡回・随時対応サービス」が創設されました。
ケアは施設につくものではなく、人に対応するものという基本。どこで生活していようとも、いつでも、その人のニーズに応えていけるケアサービスの享受が目指されています。
住宅は生活の基盤です。安全で快適に住み続けることのできる住環境が求められます。高齢期になっても、できるだけ自らの力を発揮(自助)して自立して生活できるよう、バリアフリー、温熱環境等の配慮が求められます。
安心して楽しく生活していくためには、家族、友人、地域のコミュニティなどとの交流が不可欠です。人々との交流により、自然な形で互助が育まれます。住宅の整備においては、交流を可能とし、また活発化させる視点が重要です。
在宅での医療・看護・介護等のソーシャルサービス(共助・公助)の整備と相まって、在宅で住み続けていくためには、サービス付き高齢者向け住宅においてはもちろんのこと、住み慣れた自宅においても、日中・夜間を問わず、在宅サービスを受け入れやすい空間、設備としておくことが必要となるでしょう。
「サービス付き高齢者向け住宅」のプロジェクトにおいては、在宅介護事業所、デイサービスセンターなどの在宅サービス施設等が合築・併設される場合が多いと考えられます。これらの施設等は、地域における地域包括ケアシステムの構築における拠点となることが期待されています。また、地域に開かれた人々の交流を可能とする空間の整備ができれば、より地域に貢献することができるでしょう。
「サービス付き高齢者向け住宅」は民間事業主体による事業である以上、利益をあげていく必要があります。とりわけ土地所有者が住宅等を建設し、事業者がそれを賃借し、高齢者世帯に転貸して運営するケースも多いと考えられます。計画に当たっては、地域における居住ニーズを十分調査する必要があります。また、入居を希望する高齢者は、安心して住み続けられることを当然に期待しており、ニーズに対応した適切な住宅性能、提供サービス、そして費用、契約行為が求められます。
整備に対する支援措置も導入されており、居住者が住み続けられることはもちろんのこと、今後長期にわたり地域社会の良質な住宅ストック等として有効に活用されることが求められています。賃貸住宅事業等とサービス提供事業との合体・連携による事業になりますので、長期にわたる安定した経営が図られるよう、十分な経営上の検討が必要となります。
「サービス付き高齢者向け住宅」に住み替えての生活も、住み慣れた自宅における生活も、ケアサービス等による支援を活用し自立した住生活を営んで行ける地域社会を創るためには、住宅の整備に関わる住宅関係事業者、ケアサービス等に関わる医療・看護・介護、生活支援、セキュリティ等の事業者など、幅広い分野の事業者の参加がなければ成り立ちません。
それぞれの分野の方々が、いかにその特性、ノウハウを発揮していただけるか。さらに、同じ方向性をもって連携を強化し、その総合的な能力を向上させることができるのかが、安定した将来社会の構築への鍵だと考えられます。
その橋渡し役として、高齢者の住生活や高齢者住宅における住空間のあり方、住宅における医療・介護・福祉施策等との連携の強化、高齢者住宅を取り巻く制度のあり方等について調査研究、情報交換、施策提案等を行なう目的で、2011年5月に「(一財)高齢者住宅推進機構」が設立されました。
この機構では、高齢者の住生活の安定・向上に寄与したいという意向をもった幅広い分野の法人が相集い、現在、サービス付き高齢者向け住宅等の推進の研究、住空間の研究、地域における連携方策の研究を、研究委員会を設置し実施しています。さらに定例セミナーやシンポジウムを開催し、知見の醸成、会員間の情報交換、広く一般への情報発信などの活動を行なっています。
>>(一社)高齢者住宅協会