これまでの住宅政策は、住宅不足を解消するために住宅の量を確保することを大きな目標としていました。その結果、住宅戸数は、世帯数を大幅に上回る水準までになりました。
しかし、戸数は充分になったものの、現在の住宅や周辺環境の満足度は高くないともいわれています。量は充分ですが、質が伴わないのが現状なのです。
これから日本の人口は減少していきます。また、少子・高齢化の進行にともない家族形態の変化や新しい生活スタイルが出現し、住宅や環境に求めるものも大きく変わりつつあります。
そこで「住生活基本法」では、住宅の「量を増やすこと」から「資産として確保すること」、フローからストックに視点を移し、さらに質を上げることで、住宅を次世代へ継承できる「社会的資産」とすることを第一の目標としました。
たった一家族の「終の棲家」として、一世代で住宅の寿命を終わらせるのではなく、次の世代まで継承していける良質な住宅を、ストックとして確保し市場に流通させること、「住み替え」しやすい仕組みを目指しています。
良質な住宅ストックとは、「モノ」としての質だけではなく、周辺の環境やまちなみの一つの要素として存在する「社会的資産」を指しています。
住宅としての機能や設備が充実していても、その住宅がある地域が良好でなければ、その住宅の価値は落ちてしまいます。良質な住宅にはそれをとりまく良好な環境が必要なのです。
住宅市場の環境整備が必要となるのは、一様ではないニーズに応えるためです。
さまざまな世帯のさまざまなニーズにあった住宅、さまざまな価値の住宅を市場に流通させることは、市場を活性化させるための非常に大事な要素となります。
同じ住宅に住みつづける形態から、状況の変化によって都合の良い住宅や地域に住み替えていくといった、個人のニーズの多様化に対応した居住サービスを展開できる環境を作り出そうと考えているのです。
社会的資産としての住宅を、ニーズに応じてみんなで使いまわしていくには、しっかりとした住宅市場と多様なストックが必要ですし、しっかりした市場があるということは、ストックが総合的に評価される必要があります。このように、「住宅市場の環境整備」と「良質な住宅ストックの確保」は密接な関係にあるのです。
防災や安心・安全、社会福祉、地球環境など、これまで直接住宅政策には結びつかなかった分野も、住宅政策と連携して進めていくことも大きな目標の一つです。
住宅地で起こる犯罪や地震・火災などの防災問題、さらに社会福祉問題は、住宅政策と密着しています。また、木造住宅が多い日本では、廃材が廃棄物処理の問題に大きく影響してきましたが、ストック重視という考え方は、作って壊すのではなく長い期間活用していくということですから、地球環境問題にも深くかかわってくることになります。
このような住宅関連分野と連携した住宅・まちづくりは、今後、住宅の評価に大きな影響を与える要素となっていきます。
さらに、セーフティネットの機能向上を目指し、住宅を取得しづらい人への住宅供給をこれまで以上に安定したものにすることを目指します。
低額所得者、高齢者や障害者だけでなく、子育て世帯や災害の被災者などにも、健康的で文化的な住生活を営める住宅を確保できるようにするのが目的です。公的住宅だけでなく、民間賃貸住宅も含めて幅広いツールを使いながら、機能向上を目指しています。
すべての人が健康で文化的な生活を送ることができるよう、住宅を「モノ」としてだけでなく、住宅から派生する「居住サービス」全体に着目し、それを「社会的資産」として運用していく・・・「住宅基本法」ではなく「住生活基本法」と銘打ったゆえんがここにあるのです。
住宅全般に関連する「居住サービス」全体の向上を目指したものが、「住生活基本法」のなのです。