マンション管理の半世紀|一筋縄ではいかないマンション改修|
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昭和20年代後半から公社が、昭和30年代前半から当時の公団が大規模集合住宅を建設してきました。昭和40年代になると民間が増えていきます。そういった集合住宅に外壁大規模修繕の必要性が出てきたのは築10年後くらいでしょうか。当時は外壁塗装と呼ばれていました。
分譲マンションは、一度売主から所有者に引渡されるとその後の不具合や瑕疵に対して、管理組合はもちろん売主も管理会社もノウハウがありませんでした。それでも第1回目の大規模修繕くらいまでは、管理会社に頼ってなんとか過ごしていけましたが、その後は設備等の大規模な改修も必要となってきます。管理組合はノウハウのない管理会社に任せず自分達で問題を解決しようにも、何をどうしていいかわからない、特に専門性の高い技術的な問題を相談するところがない、という状態になってしまいました。
建設当初時、専門家にも10年後、20年後に大規模な改修が必要になるという概念はなかったのですが、鉄筋コンクリートの住宅にも改修が必要であり、しっかりした計画・管理の考えが必要だということになっていったのは1980年代からではないでしょうか。
その頃から、研究者と実務家が立上げた建築学会や日本建築家協会の委員会などで、市民のためのマンションシンポジウムが開催されるようになったり、関連図書が出版されるようになったりしていきます。第三者性が強い建築技術者のいる設計事務所は、管理組合にとって比較的相談しやすかったのでしょう。
余談ですが、現在は「改修」という言葉が使われることが多いですが、当時改修という言葉はなく、「修繕」といっていました。現在でも「大規模修繕」という言葉にそれが残っています。
マンションのバリアフリー化工事は、実は非常に難しい改修工事の一つです。
共用部の場合、廊下型マンションだと少々段差があっても、1階のエレベーターホールまでスロープをつけて対応することも可能ですが、郊外でよく見る階段室型でエレベーターのない中低層団地をバリアフリー化するのは非常に難しいといえます。踊り場着床型の外付エレベーターをつけることはできますが、完全に階段を利用せずに各住戸までのアプローチを確保するのは構造的に無理があります。
また、昭和40年当時と現在では広さばかりではなく設備自体が全く違います。昔は小さなパイプスペースにあらゆるものをつめこむように建てられていましたから、それを現在の設備に改修するのは大変難しいのです。中でも各住戸の中にとり込まれている排水管工事が一番難しい工事です。
給水管やガス管は外からメーターを見る必要があるので、共用部に面するように設置されていますから、縦管を取替える場合でも共用部から施工することが可能です。しかし、排水管は各住戸に取込まれているので、住戸内に立入らないとできない場合がほとんどなのです。しかも、20年以上も経てば専有部分内で水廻りのリフォームをしている場合も多く、その解体復旧に伴うトラブルもあり、なおさらです。
耐震基準にしても、古い基準の建物は現在の基準に対して問題がある場合があります。しかし、耐震診断は進んでいないのが現状で、たとえ診断をしたとしても簡単に補強工事が可能であればいいのですが、タイプによっては対処できないものもあり、頭の痛いところです。耐震は個々の建物の構造強度だけの問題ではありません。設備の機能停止や避難、さらには被災後の居住持続の問題も含め、地震に強いマンション、地震に強いまちという考え方を「耐震」として定着させるべきかもしれません。
耐震改修や相談の受け皿としては、行政の相談・支援窓口、(社)建築士事務所協会、(一社)日本建築構造技術者協会、(公社)日本建築家協会などといった団体があります。
耐震診断に必要なマンションの基礎的データは、販売時のパンフレットの物件概要欄に掲載されています。販売者、入居年月、棟数、戸数、構造種別、建物形状、間取り、物件確認番号、開発許可番号、設計者、施工者など、マンションの概要を知るためのほとんどの情報が掲載されているのです。プロが見ればパンフレットさえあれば、そのマンションの特性は現地に行かずとも大体のことがわかってしまうくらいです。設計図はもちろん必要ですが、パンフレットも捨てずに保存しておく必要性があります。
実際の耐震診断は、詳細な構造計算をし、経年劣化の程度なども加味して総合的に判定します。
これからのマンションは、建替えではなく、改修してできるかぎり長持ちさせることを目指しています。
それにはまず、現状どういった状況なのかを判断することが大事ですが、これまでの修繕や管理の履歴がないと今後の計画も立ちません。調査・診断するにしても、過去の記録がないと難しいので、マンション管理に関連する正確な記録を残し、きちんとデータを管理することが必要となります。
もちろん個々のマンション管理組合がきちんと管理していれば問題はありませんが、記録が保存・保管され、しかも整理されていることは少ないのが実情です。管理組合役員は、1・2年で交代する輪番制であることもその大きな原因でしょう。また、管理事務室や会議室がある大規模マンションはまだしも、小さなマンション、古いマンションにはそういった共用室がほとんどありません。そうなると、工事の記録を当時の理事長が持ったまま転居してしまったなどということが起こり、散逸してしまうことも少なくないのです。
「マンションみらいネット」は、そういった問題を解決するためのシステムと考えてください。
また、中古マンションの売買時には不動産業者が仲介に入るのが通常ですが、不動産業者には売主から得た専有部分に関する記録はあっても、共用部分の記録までは渡らないのが普通です。しかし、マンションは共用部分と専有部分が一体となってはじめてひとつの住宅ですから、共用部分の状態も知っておく必要があるのです。
現在マンションの相場は、立地と専有面積と駅からの距離でほとんど決まっています。しかし、マンションの場合、管理費と修繕積立金というものがあり、管理費はさほど違いはありませんが、修繕積立金は、管理状況によって大きく変わってきます。管理・メンテナンスにはお金がかかるということを住民が理解し、きちんと納めて必要な改修を行い、良好な居住性を維持していけば、築年数は古くても、しっかり管理された資産価値が高いマンションということになります。
この12月に国土交通省からマンション管理標準指針が公表されました。そこでは、マンションの管理状況について、標準的な対応と望ましい対応が示されていて、自己評価できるようになっています。どのマンションも望ましい状況までもってゆきたいものです。
購入者がこういった情報を入手できれば、非常に参考にできますね。マンションは社会的資産であるという意識も高まってきているので、これまで管理のよくなかったマンションは資産価値を高めるために管理に気を配るようになる可能性があるし、それでも管理を怠るマンションは淘汰されていくのかもしれません。
今後こういった仕組みを本格的に稼働させていくには、専有部分のリフォーム記録も管理組合が正確に把握するため、標準管理規約で管理組合に届出・報告をすることを徹底していく必要があるでしょう。なぜなら設備は、専有部から共用部につながっているからです。
こういった情報が標準的に開示されるようになれば、流通もスムーズになっていくのではないでしょうか。
新築マンションの場合、現在は長くもたせることができる建物を目指しています。つい10年前には普及していなかった考え方ですが、ここ数年はスケルトンインフィル住宅(SI住宅)の考え方が広まりつつあります。躯体さえしっかりしていれば、間取りも設備も全部変更可能という考え方です。
バブル期までは、ダメになったら建替えようと考えていた日本ですが、マンションはしっかりした建設と的確なメンテナンスさえしていれば、60~70年くらいは楽にもつはずです。
マンションを長持ちさせるための技術も開発されてきています。日本のマンションは、これから「長持ち」という視点からのアプローチを始めつつあるところだと思っています。